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最近すごくバカで面白い奴がいるんだとキバが嬉しそうに言った。
女のくせに男みたいでとにかくバカなんだとキバが楽しそうに話す。
そんなキバを見るたび、腹の底に石を積み重ねられるような思いをしていた。
気のせいだと自分に言い聞かせて、大人にならなきゃと自分を抑えていた。

その女が彼氏のことでキバに相談して、キバがそれを俺に聞いてきたことがある。
おかしなことになってるなと思いつつその時は答えてやり、だけどその女は相談する相手を間違ったと思わなかったのか、ずっと不思議だった。
キバに恋愛の相談?
俺だったら天地がひっくり返っても絶対しないぞ。
だけどその理由もすぐ知れた。

「何でそんな女、さっさと振っちまわねぇの?」

つまり男と別れて今度はキバに付き合ってと言い寄っているのだ。
振ったんだか振られたんだか知らないが、キバに恋愛事で頼るあたり初めから狙ってたんじゃないだろうかと思う。

当然、即断ったものだと思っていたのに、何故かキバは返事を濁したという。
それはなにを意味するんだろう。

俺がいるのに。

「だって可哀想だろ。あいつこないだ振られたばっかなんだぞ」
「だったら何。その女と付き合うっての?」

俺と別れて?

「んなこと言ってねえ!!」

ならどういうこと?

「そういうことだろ。そいつのこと好きなんじゃねぇの?」
「シカマル…てめぇいい加減にしろよ」

俺のせい?

「いい加減にすんのはキバの方だろ?ああ、やっぱり入れられんのより入れる方がいいってワケ?」

言い過ぎだ。
明らかに傷つけるためだけの言葉。
こんなこと言うつもりじゃなかったのに。

キバは下ネタが好きだけど、下ネタでからかわれるのをひどく嫌う。
それは俺とこういう関係になってからの気がするんだ。
やっぱり男だから俺との行為に抵抗があったり劣等感をもってたりするんだろうか。

だったら、俺といるのはキバにとって苦痛なのかもしれない。

顔を上げキバを見ると顔を赤くして俺を睨んでいた。
その瞳が潤んでいるのは怒りで興奮しているからか、それとも。
ああ、また泣かせてしまった。
罪悪感でキバの顔から目を逸らした。
でも謝ろうと顔を向き直した瞬間、目に入ってきたのは拳だった。

ガッという衝撃と共に血の味が広がる。
意表をつかれ後ろのベッドの角に背中をぶつけた。
痛みで一瞬呼吸を飲み込んだ。

「…って!てめ何しやがる!!」

ぶつけた背中より殴られた頬が痛かった。
口の中も錆くさい。

「シカマルが…っそんな冷たい奴だと思わなかった!」
「ああ!?ならその子が可哀想なので俺たちは別れましょうってか?!」
「無、神経、なんだよ」

上に乗ってきたキバにマウントをとられ胸ぐらを掴まれる。
顔を引き寄せられ感情を込めた低い声で言われた。
怒りの込められた声で。
それにカッとなりキバの胸ぐらを掴み返して引き寄せ、反動を利用し後ろに投げ飛ばす。
後ろはベッドだ。
大した怪我はしないだろう。

「うあっ!?」
「ふざけんな!!俺はお前の一体なんだっての!?…なんで振られた男の代わりにしようとしてる奴なんかにお前をやんなきゃなんねぇの!?」

体勢を整え息を切らしながら怒鳴り散らした。
キバは身を起こしながらこちらを睨んでくる。

「シカマルはっ人の気持ちなんてどうだっていいんだよな!」
「そんな女なんてどうでもいいに決まってんだろ!?」
「それが冷たいってんだよ!!」

右ストレート。
受け流してキバの腕を後ろに捻り上げ床に押さえつける。

「いて…っ!」

なぁ何で?俺なんかしたかなぁ?
キバはやっぱり女と付き合いたいんだろうか?

「ちくしょう…っ離せよ!」

俺の下でもがくキバを見てふと酷い気持ちが浮かび上がり、このままキバをめちゃくちゃにしたくなる。
嫌がる体を押さえつけて無理やり犯して。
抵抗するなら縛ったっていい。


「痛ぇっシカマル…!」

痛みに顔を歪ませるキバを見ていたら、そんな考えとは裏腹に湧き上がってきたのは深い絶望にも似た悲しみだった。

うわ
なきそうかも


「!…っ」

我に返り、気づかぬ間にぎりりど締め上げていた腕を離した。
体から力が抜ける。
そのままベッドに背をもたれ掛け手で顔を覆い隠した。

急に自由になったことを不思議がりながらキバも体を起こし痛そうに肩をさすっている。

「なん、…なんだよ」

俺は何してんだ。
こんなんじゃ嫌われて当然じゃないか。
キバが俺を嫌いになるのも無理はない。

嫌われても。
憎まれても。


でも、それでも

嫌。嫌だ。嫌なんだ。


「…いやだ…キバ…」
「…?」

「…イヤだ…!そんな女んとこなんて行くな…行くんじゃねぇよ!」

頭を垂れて手を膝の上で組み、まるで祈るような格好で叫んだ。

「…好きなんだよ…キバ、行くな…」
「…シカマル…?」

好きなんだ
行かないで
独りにしないで
側にいて
触れさせて
好きでいさせて


俺はキバと出会ってこんなにも弱く情けなくなってしまった。
独占欲と嫉妬ばかり強くなってみっともねぇ。

キバが好きなのに
優しくしたいのに
笑顔が見たいのに


このバーカ、お前ってこんなケンカ強かったのかよ。へなちょこのくせに」

子供みたいに明るいキバの声が上から降ってきて、隣にぼすんと腰を下ろした。

「…へなちょこじゃねぇ」
「じゃあバカだ。真性バカ。バカバカバカバカバァアアアカ」

けなされているのに優しく感じる。
俺ってマゾの気あったのかなんて考えた。

「…キバ、好きだ」
「おう、身をもって思い知ったぜ」
「好き」
「…うん」
「シカマルってよ、本当にバカな」

ふいに肩を組まれ引き寄せられた。
素直にキバの胸に頭を乗せると、とくんとくんと鼓動が聞こえる。

「…さっきっからバカバカうるせぇよ」
「だってバカなんだもん。頭いいくせにバカなんて、本当のバカって証明じゃね?」
「…もーいい。自分でもバカだと思うし」
「認めやがった。つまんねーの」

「べつにさ、あいつも本気でオレと付き合いたいなんて思ってねぇんだよ。ただ…甘えたかっただけなんじゃねぇの?オレあいつにアンタとは絶対付き合えないって言われたことあるし」
「…んなの分かんねえじゃねーか本当に好きになったのかもしれねぇし」
「それはねぇってば」

本当に女々しいもんだと自分に呆れてしまう。
キバにも、ちぃっっせぇヤツと力一杯言われ笑われた。
何もそんなに力込めなくてもいいんじゃないのか。

「でも、かわいい」
「…何が。みっともねぇよ」

へへっと優しく笑うキバが愛しくて見つめていると自然と唇が触れた。

「でどうすんの」
「なにが?」

唇すれすれで言う。息がくすぐったい。

「その女」
「…あいつね、まだ彼氏のこと好きなんだよ。逃げてるだけなんだよねー。もう少ししたらちゃーんと言ってやるさ」
「犬塚くんは大人デスネ」

それに比べて俺は。

「奈良くんはアダルティデスネ」

…エロイと言う意味か。ちくしょう。
苦笑いで返すとキバの方から首に腕を回してきた。

「たまには嫉妬されんのもいい気分」
「俺はサイアクだ」
「アイを感じちゃうね」

その優しさ故の余裕か、考えてないだけの気楽さなのか、いひひと笑った顔が幸せそうで少し憎らしい。
それでもこいつだけは絶対手放したくないなぁと、深くなるキスを交わしながら思った。



end
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僕の心を奪った憎い人

キバがかに座だということを思い出して書きました。母性の星ですね。
キバの半分は優しさでできています。(バファリン)


061214ねじ式P


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